SEIWA | Leather Craft :: Fabric Dyeing Forum | 染色・レザークラフトフォーラム | 佐々木健友|TaketomoSasaki



私にとって革は
「風合い」や「味」が
最も重要

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――冒頭、gigiの革小物は、まず素材としての革にこだわっているとおっしゃっていました。そのこだわりをもう少し詳しくお話いただけますか?

 私は今はイタリアンレザーを好んで使っています。なぜなら、端的に発色のよさと経年変化による味わいが優れていると思うからです。イタリアをはじめとするヨーロッパレザーと比較すると、日本のタンナーさんはものすごく高い技術を持っていますが、注力する方向がどうも私の好みと違うような気がします。それは革をなめすときに重要な水質の違いや日本の市場要求に応えるためというのも前提としてもちろんあるのですが。

 日本ではロット違いでも色が一致するとか水に濡れても平気といった「機能面」を最重要視してるんです。ということは、その機能を実装するため表面に顔料や撥水剤をたっぷり塗っているんですね。機能面ばかりに力を注ぎすぎて、革の味わいなどといったものは後回しなんです。

 技術がある分なんでもできてしまうので、商品に常に新鮮さを持たせるため、商品寿命が非常に短い。去年あったものが今年はもうないことがザラです。つくろうと思えば何でもつくれてしまうがゆえですね。

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 私にとって革は「風合いや味」が最も重要です。これは単純にヨーロッパがスゴイという話ではないんです。向こうは「昔っからコレだけ」と数種類の革のみ100年以上に渡り作り続けているというタンナーがいます。種類が少ない分、より良く仕上げるための工夫を突き詰め、それが唯一無二の魅力になっているんですね。

 ヨーロッパでも環境に応じた変化や後継者の不足、資本など問題がないわけではないんですが、ちょっとやそっとの流行り廃りに動じることはない。ヨーロッパの革は、ロットごとに微妙に色合いがぶれているとか、ムラもあります。むしろ日本のタンナーのほうがその点は優秀ですが、ヨーロッパレザーにはずっと変わらないという定番の安心感、革の味そのものは変わらないという代えがたい価値を感じます。

 磨けば光るし、タンニン系の革はそういった価値が非常に大切です。ロットごとの色ムラを抑えるために顔料を乗せて色を揃えるというなら、いっそ違う色でいいと思っています。


――「革を刺し身のように扱って仕立てる」というお話にも通じますね。

 作り手の勝手な願望として、製品としてお出ししたものはできれば膝の上に乗せて大事にしてほしい(笑)と思っています。昔ながらのデザインで硬い仕立てのカブセがついていると使いづらいし、普段使いを考えるともっと身体にふわっと馴染んで曲がってくれると歩くのも楽です。

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 普段使うものはなるべくシンプルで生活に寄り添い、ときどき可愛がってあげるとツヤが出てきていい感じと思える、そういうモノをつくりたい。そしてそういうバッグをつくりたいと思ったときに手が伸びるのがイタリアの革なんです。

 もちろんイタリアの革が絶対と言うわけではなく、もし好みが変わったら違う革を使うかもしれません。場所や人間が変われば革も変わります。そのうち「俺はドイツの革しか使わない」なんて言い出すかもしれません(笑)。


――生活に寄り添えるモノをつくり出せる革が、今はイタリアの革ということですね。イギリスでもドイツでも日本でもなく。

 そうです。すごく味の出やすい、変化する革ですからね。使い込んだ風合いがよく味わえます。そういった革は日本でまだまだ浸透していません。雨の日に革靴を履いても大丈夫、という宣伝文句が悪いとは言いませんが、現状に阿ったままだと浸透しませんし、皮革業界も変われません。あと10年程経って、使う側の要求に変化が見えて来る頃に供給側も変わっていくというか。

 今は若い作家さんがどんどん台頭してきて、天然のタンニンなめしの外国産革をこぞって使っています。今はそれでいいと思うんです。そうやって活動していくうちに次第にメインとして浸透していくと思います。昔喩え話であったのですが、日本のサラリーマンは外を歩いていて雨が降ってくるとバッグを傘代わりに頭上にあげます。一方極端に言うとヨーロッパの人はバッグを懐に隠し、靴を脱いで裸足で雨宿りできるところを探す。これは極端な例ですが、意識レベルで端的に革への認識の違いが現れていると思います。


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――とっさに出る行動が違うんですね。

 よく革問屋さん同士の会話でそんなことを言っていました。日本は撥水や色合いなど、とにかく技術でカバーできることを実現し、革に機能の付加価値を持たせて商品力にするという方向性が顕著でした。革靴で、通気性を確保しつつ撥水性を高めたという商品もありますが、革靴にゴム長の機能を要求することはナンセンスだと思いますね。濡れても平気とか傷がつきにくいといった機能だけに特化しすぎているとおもいます。


――よく分かりました。それでは質問を変えまして、gigiとして小物をつくる中で、今度は工程として最もこだわっている部分はどこですか?

 手断ちによる裁断工程です。まるでクリッカー(注:型抜きの機械)で抜いたかのような正確さを持たせられるように心がけています。間違っても手断ちだから製品にバラつきや個体差がある、という言い訳をしないようにしています。

 裁断が覚束ないために、仕立てた製品1つひとつに悪い意味での妙なクラフト感が出てしまうのは嫌ですね。だから、裁断はケガキ線から絶対外れないように、顔を近づけて息を止め、細心の注意を払って行っています。特に小物類はコンマ数ミリのズレが歪みに直結します。


――なるほど。では現在gigiとしてこれまで述べていただいたようなこだわりをお持ちになるようになった過去についてお伺いしたいと思います。まず佐々木さんがはじめて革に触れたのはいつ頃だったのですか?

 28歳の頃ですね。それまではアパレル向けに生地を卸すメーカーに3年程度務めていました。1987〜88年頃、時代はバブルで毛皮のコートなどが全盛でした。当時、顧客からピッグスエードなど柔らかい革を預かり、キルティング加工する仕事も請け負っていました。顧客とやりとりをしている間に、生地のほか、革も面白いと思ったんです。

 そんな頃、革問屋さんからウチにこないかと声をかけていただきました。それが冒頭の28歳ころです。以来革を卸す仕事に約20年間従事しました。卸業なので、注文を受けると革を担いで納品に行きます。納品先は当然下請けのメーカーや職人さんの工房です。そういう人たちの仕事を間近に見るうちに「なんかすごく面白そう」と思うようになったんです。


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――仕事のつながりで現場を見るうちに、手を動かす方にも興味が湧いてきたんですね。

 数ある取引先の中で、ミシンで仕立てる職人さんと仲良くなりました。その方は年齢も私と割と近かったんで、友だちになって行き来するうちに自分もなんかつくってみたいと思ったんです。30歳頃のことです。

 最初は本当に見よう見真似でカンタンなトートバッグをつくりました。ミシンなんか持っていませんでしたから、手縫いでとりあえずカタチに仕立てたんです。職人さんのところにやり方を聞きに行っても、向こうも忙しいし仕事があるから、いちいち手ほどきをしてもらえるはずがありませんよね。

 まず自分で試し、わからない部分を明確にして、ここはどうやってるんだろうという具体的な質問にしてから、仕事で行くついでにこっそり教えてもらっていました。具体的に聞くと具体的に教えてもらえました。最初は参考書や人に聞いたりして独学でやってましたが、そのうち本当に面白くなっていきました。

 職場が革問屋ですから、材料は在庫過多や見本品などで安く手に入れられたんです。30代は「趣味」としてレザークラフトをやっていましたね。材料を勤務先で得て、技術を取引先で得るという、思い返せばとっても幸せな立場にいましたね(笑)。


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――その当時の革はどんなものをつかっていましたか?

 主に靴用の革でコンビなめしでしたね。タンニンとクロムの両者にどれほど違いがあるのかということは、手を動かして作り始めた当初は分かりませんでしたからね。カタチになった満足感を次のモチベーションに、いろんな形を仕立てることにトライしていた頃ですね。


――あくまで趣味だった。

 20年以上に渡って継続できたのは、レザークラフトがきっと私の性に合っていたんでしょうね。手を休める期間もなく、ひとつ仕上がると次は何にしようかという具合に、淡々と継続して取り組んでいましたね。