厚い革でつくられた作品たち。コンチョも坪谷氏の手による完全オリジナル。
彫金分野にも精通し、キーホルダーやバングルなどもリリースしている。
「ネイティブ・インディアンのカルチャーと彼らのつくりだしたモノが好き。アーティストとしても尊敬している。」
「依頼を受けたときにたいていのリクエストにはお応えできるという点は私自身の強み。」
坪谷さんの愛車、’48年式パンヘッドエンジンを積んだヴィンテージハーレー
厚革で一貫制作、
シンプルなフォルム
に宿る確かな質感
Profile
つぼや・たかき(革作家・ジュエリーデザイナー)
1971年生まれ、青森県出身。神奈川県横浜市在住。革小物・ジュエリーブランド「JET-RIDE」代表。桑沢デザイン研究所インテリアデザインコース修了、ネイティブ・インディアンのカルチャーと自然の造形美を融合させたデザインを得意とする。2012年、JET-RIDEをスタート。
岡田(SEIWA企画部、以下略)
――まずは「JET-RIDE(ジェット・ライド)」としての展開、アイテム、坪谷さんの現況に関してお教えください。
坪谷貴起 氏(以下敬称略)
革小物商品を制作し、主に東京・原宿のセレクトショップ「edge(エッジ)」さんに置かせてもらっています。また同じ表参道にある美容関係のショップさんにシザーケースを置かせてもらっています。
JET-RIDEとしてのメインはバッグの制作ですね。あとはウォレット、カードケースなどの革小物をラインアップするほか、ペンケースなども展開しています。また彫金の分野になりますがバングルなどもつくっています。
ブランドの全体的なイメージは、昔自分が見て憧れていた革小物などを参考にし、もっとこうだったらカッコイイのになぁとおもう部分を具現化するようにしています。
――「JET-RIDE」のオリジナリティーは?
一番は素材としての革の厚さ、あえて厚い革をつかっているところです。厚い革というと固い、重いといったイメージがありますが、つかっていくうちに柔らかくなっていくのを楽しんでいただきたいですね。
とにかく厚い革をつかった作品を多くつくっていますが、私の作品を見て、革が「厚い」という理由だけで敬遠しないでいただけますと嬉しいです。まずは質感を見ていただきたいとおもいます。たしかにはじめは厚くて固いですが、つかううちに、手に馴染み柔らかくなってきますよ。
厚い革というと男性的なイメージが浮かぶとおもいますが、JET-RIDEではたとえば女性的なクラッチバッグなどにも厚い革をつかっています。
それと、きっと見た目から想像されるより重くないとおもいます。手に馴染むほどに、重さを感じなくなっていくとおもいます。体の一部になっていくというか。顕著な例がブーツですね。手で持つと結構重いのに、履き慣れてくると重さを感じなくなっていくのと同じです。それと同じことが財布やバッグにも言えるのでは、と密かにおもっています。
――お使いの革にもこだわりがあると聞きましたが?
革は浅草の革問屋さんに依頼して3mm厚以上の革を3〜5色程度、オリジナルでつくってもらっています。
JET-RIDEの革小物の色に「白」があるのですが、タンナーさんや皮革を販売される方にとって、白は汚れやすく原皮の傷などが目立ちやすいので比較的避けられることが多いと聞きますが、私は今あえて白の革にこだわっています。白い革を使った時に「汚れてしまう」「汚れやすい」と考える一方で「アジが出る」と考えてくださる方もいらっしゃいます。白い革はその傾向が特に顕著で「汚れ」と捉える方が圧倒的に多いのは事実なのですが、そこを工夫して「アジが出る」と捉えていただける商品を送り出せるモノづくりができないかと試行を重ねています。
また厚くて固い革を使い込んで柔らかくしていくという点に、革のよさがあるとおもっています。オリジナルの革をつくる時も、その点はすごく意識して依頼しています。さらに革がしっかりしている分、使い続けて柔らかくなってきても、全体のシルエットが崩れることはありません。つまりしっかりとシルエットを保ちつつ、自分の体にフィットして使いやすく変化していくということです。
商品として出しているものは全て私が手づくりしています。ミシンは使わず総手縫いで仕立てています。また仕上がりのキレイさを考え、糸は継ぎ足さずに、一度で縫うようにしています。縫う長さが長くなると、糸が足りなくなって途中で継ぎ足すことが一般的ですが、継ぎ足しはしないで縫い上げています。
デザインは極力シンプルであることを心がけています。私はネイティブ・インディアンのカルチャーと彼らのつくりだしたモノが好きです。アーティストとしても尊敬していますね。キレイでエレガントな雰囲気とネイティブ系のデザインを融合させて商品化するということを常に考えています。
特徴的な素材としては「シェブロン玉」を使っていることが挙げられるとおもいます。シェブロン玉はベネチアの女性アーティストがつくったと言われているビーズです。私がつかっているのは、現代のくくりに入るのでいわゆるアンティークではないのですが、それでも100年程度は経過しているものを使っています。
比較的新しいものは表面がツルツルしてキレイなものも多いですが、さらに時代をさかのぼりアンティークとなると、表面がざらつきのあるものもありますね。それはそれで非常に存在感がありますが、私は比較的新しいものを使っています。何と言ってもその存在感にヤラれました。このシェブロン玉は今あるものがなくなったらオシマイという素材なので、私自身が継続して商品に使えるようにある程度の数をストックしています。
――なるほど。多くのこだわりをお持ちなんですね。ところでJET-RIDEの立ち上げはいつですか?
2009年です。それまでも革や彫金などずっとモノづくりをしてきたので、経歴としては20年以上あります。友人など身の回りの人たちにつくってあげていたのが好評だったので、さらに商品として昇華させました。
ブランドを立ち上げてからは、フルオーダーをメインにつくってきました。注文をいただくことの多かったバッグやリングなどは、デザインから全て手がけてきましたね。
――レザークラフト、革工芸、彫金など、坪谷さんはいろいろな技術を併せ持っていますが、その中で一番得意な分野はどこですか?
一番というより、依頼を受けたときにたいていのリクエストにはお応えできるという点は私自身の強みだと考えています。
――いろいろな分野を渉猟されていると、必然的につかう道具も増え、こだわりが出てくるのではないですか?
道具はそれぞれの分野を掘り下げていく中で、手に馴染んで使いやすいようにカスタムしています。たとえばインディアン・ジュエリーで「スタンプ」という文様をシルバーの中に入れるという物があります。文様には繁栄や家族を意味したり、土や天を示したりするものもあります。スタンプを入れていく工程は、インディアンの人たちと同じ作業をしているという感触があります。
革で言うと、たとえば菱目打ちの形でも幅や穴の形が自分の理想に合わなければそこでヤスリをかけて自分に合う形にカスタマイズします。私が使っている道具はほとんど何らかの形で、自分の使いやすいように手が入っていますね。
たとえば革用の針ですと、私が使っている革は厚いので、通常の針で縫うと折れてしまうことが多くあります。そこで針をバーナーで焼きなまして柔らかくしました。そうすると縫うときに使いやすくなります。金属的にしなるので、反対側から引っ張るときに、折れにくくなるというわけです。
――ブランドネームに込めたメッセージは?
JETはインディアンのズニ族がよくつかう石、半貴石のことを指しています。JETは黒玉(こくぎょく)とも言い、数万年の時を経て水中で化石化した木のことです。木の幹が化石化したもので、黒く柔らかい輝きがあり、軽く加工しやすいといった特徴があります。
JETは宝石や貴石ではないのですが、色の美しさなどが際立っており、そういった石が私自身大好きでしたので、まず「JET」とつけました。そしてRIDEは「乗る」という意味ですね。自分自身バイクが好きなので、バイクに乗るの「RIDE」、流行に乗る・時には乗らないの「RIDE」、そして石をいろいろなアイテムに乗せる意味の「RIDE」。さまざまな意味を込めています。
――一番は「石」にあり、石を乗せるための土台として「彫金」の技術があり、さらにそれを乗せるものとして「革」の技術があるといった感じなのでしょうか?
そう言えるかもしれませんね。単純に好きなものとなると「石」が先に来ます。でも、それぞれの素材によさがあり、技術的にも見せ方があるとおもいますので、各々特徴を出しながら仕立てていくと言う感じです。
- 1坪谷貴起|Takaki Tsuboya
- 2「自分に適したモノづくりのサイズ」を探求し、彫金と革に傾倒した