「TURKEY'Sは手仕事のオーダーメイドにこだわった革小物のブランド」
カードケース。ボタンをエキゾチックレザーでくるみ、アクセントとしている。
「カードケースはヘリ返しに加え、厚みの増加を極力押さえるため、下(内部)に行くほど薄くなるように斜め漉きを入れている」
馬蹄形コインケース。精緻な作業の積み重ねにより、優れた嵌合性を確保。
「TURKEY’Sの小物の縫い目は、通常の手縫いだと右に傾いて見えるところを、ミシンと同様に左に傾くようにしている」
瀧本氏の初期の作品(下)。ネイティブアメリカンの世界に憧れていたという雰囲気が伝わる。
瀧本氏お気に入りのビンテージのウエスタンシャツ。意匠を革のモチーフにも取り入れているという。
「'02年以降は革小物制作に専念し、TURKEY’Sの価値を高めることに邁進してきた」
「一手間を惜しまない」
その積み重ねが
品質を高め、
信頼を紡ぐ。
Profile
たきもと・けいじ(革作家)
TURKEY'S(ターキーズ)代表。オーダーメイドを中心とした革小物を制作するブランド。1997年、かねてより革工芸に興味を抱いていた瀧本氏の父、瀧本嘉也(たきもと・よしなり)氏が東京都世田谷区上野毛に設立。以来世田谷区産業振興公社発行の冊子「世田谷ものづくり」に登場するなど、地域に密着したモノづくりを推進。2002年、息子の圭二氏が代表になる。既成概念にとらわれず独学で試行を重ねて高めた技術を武器に、機能美すら感じさせるヨーロピアンスタイルの革小物制作を得意とする。緻密な手作業を積み重ねて生み出される製品はデザイン、つかい心地ともに定評があり、リピーターも多い。2013年7月、同区深沢に移転。工房と展示の場が隣り合った体制でスタート。
岡田(SEIWA企画部、以下略)
――「TURKEY'S(ターキーズ)」として現在の事業をご紹介ください。
瀧本圭二 氏(以下敬称略)――■
TURKEY'Sは手仕事のオーダーメイドにこだわった革小物のブランドです。量産はできませんが、1つひとつを大切に制作しています。美容師さんがおつかいになるシザーケースなども制作しています。注文をいただく美容院のロゴで刻印を押し、お店のオリジナル品としてお納めしています。
また友人でアパレルブランド(ドラゴンマインドファミリー)を立ち上げた方がいて、その方からの別注で革小物をつくっています。同じような商品を海外で量産するとある程度のロットが必要となるので、手づくりの小ロットで制作しています。友人の運営するブランドのイメージや雰囲気を活かしたコンセプトやデザインにて、先方のオーダーに合わせて制作しています。色合いや機能美を活かしたアイテムとなっております。
――TURKEY’Sとして得意とするところは小物系ですか?
――■そうですね。ブランド設立当初から小物が中心で、おもに財布がメインですね。
――TURKEY’Sプロダクトの特徴は?
――■ずばり仕立てです。既成品の財布は裏地に布をつかっているモノが多いと思います。もちろん革小物のブランドをやっている方の中には、革だけでつくっている方もいらっしゃいます。しかし、革だけで仕立てているブランドの中でも、革の厚みを細かく調整して仕立てるといった点においては、少し抜きん出ているのではないかと自負しています。
仕立てにこだわる理由のもうひとつに、昔、私が革小物をつくろうと思ったとき、既成品には革の厚みやつかい方にこだわったものが見当たらなかったという点も挙げられます。
TURKEY’Sでは、オーダーメイドで革の床面を見せず、すべて銀面だけでつくることもあります。TURKEY’Sではこれを総銀面と呼んでいます。たとえばコインケースの中などは外側から見えませんが、すべて薄く漉いた革を貼り合わせて銀面だけでつくっています。すべて銀面でつくろうとすると、革をごく薄く漉いて調整しなければなりません。また貼り合わせたり、ヘリ返しを多用したりとコンマ数ミリで厚みを細かく調整しなければできません。
カードケースの部分は、ヘリ返しの段漉きに加え、革の重なりによる厚みの増加を極力押さえるため、下(内部)に行くほど薄くなるように斜め漉きを入れています。表からはまったく見えない部分ですが、そのちょっとの手間を惜しまないことで完成度が高まります。
一方、革を薄くしていくと強度が失われていきます。強度に関しては自分でつかってみたり、製品の修理などで戻ってくるものを見たりしていくうちに壊れやすい部分が次第に把握できるようになりました。その経験を活かして壊れにくくするための工夫を重ね、革の薄さ(=軽さ)と強度の両立を図っています。どこが壊れやすいかを調べ、新しくつくるものにフィードバックしているため、少しずつカタチが変化、進化していますね。
――デザイン上のフォルムとしてではなく、実際につかうことを考えた上で強度を確保するための工夫なんですね。
――■もちろんです。もう一点はステッチです。TURKEY’Sの小物の縫い目は、通常の手縫いだと右に傾いて見えるところを、ミシンと同様に左に傾くようにしています。一見ミシンで縫ったように見えますが、すべて手縫いです。
縫い目にしても、ほかの革製品にそういうものがあまり見られなかったからこそ、あえてやろうとしたんです。自分で手を動かしてレザークラフトをある程度やっている方には、縫い目の向きの違いにお気づきいただけると思います。
――なるほど。こだわりがよく見えるお話ですね。では、そのような現在に至るまでのご経歴についてお伺いしたいと思います。まずはじめて革にさわろうと思ったのはいつ頃ですか?
――■平成9年頃、父のモノづくりがきっかけでTURKEY’Sを立ち上げました。父は当時サラリーマンでしたが、自分の手でモノづくりをしてみたいということで、大好きだった革をつかって小物づくりをはじめたんです。父自身40年も前の革のポーチを気に入ってずっとつかっていて、それは茶色のヌメ革でつくられたものでした。私は当時学生でしたが、父のやっている事を見て興味を持ち、そのうちに教えてもらうようになりました。
私のことをお話ししますと、ちょうど同じ時期にあるフリーマーケットで茶色いメディスンバッグを買ったんです。もともとアメカジが好きだったこともあるのですが、革の風合いに惹かれ、自分でもつくってみたくなったんです。レザークラフトとして父に手ほどきを受けていた当初は、ネイティブアメリカンの世界に強く憧憬を抱いていまして、今見返すと荒々しい風合いのものばかりつくっていました。
――お父様の姿が革にふれるきっかけだったんですね。
――■父のつくったものを見て「これが手でつくれるんだ!」という驚きですね。父の姿を見て、自分もつくるようになりました。
――レザークラフトとしてはじめたばかりの頃を振り返ってみると?
――■私は高校、大学とスポーツで進学しました。ラグビーをやっていたんです。大学の頃は、ラグビーをしている学生が自宅で革小物をつくるという、仲間内では異色の存在だったかもしれません。革でモノづくりをしている人は周りにまったくいませんでした。
今でも当時の先輩後輩をはじめとする付き合いは続いており、先輩に財布をつくってさし上げたりと人間関係が生きています。TURKEY’Sを立ち上げた当初は売り先がなかったので、学生時の仲間の口コミで広まっていったので、大きな助けになりました。
今もそうですが、高校生から20代の頃はファッションに非常に興味があり、ビンテージの服を買い求めていた時期もありました。1950年代頃のビンテージのウエスタンシャツなどは今も大切に持っています。そのシャツの意匠をTURKEY’Sのデザインモチーフに取り入れています。
当初は手づくり感の溢れた、いわゆるクラフト感のあるものしかつくれませんでした。革の厚みも調整できませんでしたしね。工具も技術もなかったので、つくったものになかなか満足感は得られませんでした。
最初の頃はバッグのマチの部分を1時間かけて縫い上げた後、ずれていることに気づいて落胆することもありました。そこでつかう革を変えてみたり、縫い穴の位置や数をきちんと揃えるようにしたり失敗を繰り返しながら修正を重ねていったんです。父に教えてもらうと同時に’80年代の革工芸教本を見ながら、独学でつくっていました。洋書のイラストも参考にしましたね。
――失敗の中から改善を繰り返して上達していったんですね。
――■そうですね。少しずつ改良を繰り返しながらです。つくるたびに少しずつレベルが上がっていくことを実感していた時期でもありますね。今でも工程に関しては、どのようにしたら一番いいかアレコレ考えながらつくっています。足りない道具をすこしずつ揃えながら取り組んでいた頃の話です。
――学生時代を経て、その後は?
――■大学を出た後、革とはまったく関係のない職に就きました。ホテル設備の修理維持という仕事で、プールを管理したり、客室設備の不具合を修理したりという内容です。勤務時間は消防士のように泊まりで勤務し、夜が明けて帰宅するという生活でした。
革小物の制作は仕事明けに帰宅してから行なっていましたね。そういった生活を大学卒業後、5〜6年続けました。当時は父が先頭に立ち、一緒に制作して東急ハンズさんなどに卸していました。
そうして仕事と革小物制作を続ける生活をしていましたが、2002年頃、ともに革小物をつくっていた父が都合で中国に行かねばならなくなりました。そこで私は仕事を辞めて父に代わってTURKEY’Sの代表になりました。
父もこれまでやってきたことを残したいという思いがあったのでしょう。それまでは別の仕事を持ちながら、TURKEY’Sというブランドに携わるという二足のわらじを履いたような状態でしたね。2002年以降は革小物制作に専念し、TURKEY’Sの価値を高めることに邁進してきました。
- 1瀧本圭二|Keiji Takimoto
- 2独学で磨いたレザークラフトの技術
- 3根本にあるのは自分自身がつかいたい、欲しいと思うモノがつくれているかということ