定番仕上剤『トコノール』
レザークラフトの必需品『トコノール』はコバ、トコ面を美しく、なめらかにする仕上剤の定番です。
トコノールはコバ・床面の毛羽立ちを押さえ、美しく丈夫に仕上げます。
その唯一の性能は、いつでもだれでも簡単に、どの他社製品よりも長持ちします。
[つかうもの]
トコノール(無色)
ガラス板 または プレススリッカー 使い方はこちらでもご紹介しています
左からトコノール無色120g/トコノール無色500g/プレススリッカー/ガラス板
◯トコ面の毛羽立ちをおさえる
革には銀面と繊維の毛羽立ったトコ面があります。トコノールはこのトコ面に塗って磨くことで、毛羽立ちをおさえツヤが出ます。
トコ面の毛羽立ちをおさえる
革のトコ面に薄く塗り広げます。おすすめはヌメ革です。表面を起毛させたヌバック、スエード等の皮革には使えません。
指先で塗り広げることがもっともお手軽ですが、肌の敏感な方はビニール手袋をご着用ください。
ウエスなどの綿の布を折りたたんで塗ると、効率よく作業できます。厚塗りに注意してください。
[ワンポイント]切り出す前の大きな革やカバンのパーツなど、一度に広い面積を塗る場合は、ジラコヘラやのりベラをつかうと便利です。
半乾きのときに磨く
トコノールの成分が革に浸透して白い色が薄くなったら、ガラス板やプレススリッカーの溝のない部分をあてて擦ります。革の繊維がおさえられてツヤが出ます。ウエスなどで磨いてもよいでしょう。
力を入れる必要はありません。工具が浮かない程度におさえて前後に動かします。力を入れてギュッギュッと磨くと、特に小物などのパーツは寸法や厚みが変わってしまうのでご注意ください。
[ワンポイント]革の毛羽立ちは、革の部位によって押さえやすい方向があります。革の繊維の方向が分かればその方向に動かし、わかりにくい場合はタテ・ヨコと軽く動かしてみると繊維の流れを見つけることができます。注:革によっては全くわからない仕上げのものもありますのでご注意ください。
粘度調節による[接着効果]
写真左はトコノールを塗る前、写真右は塗って磨いた後です。トコノールを塗った後は、ツヤが出てなめらかなトコ面になります。
トコノールを塗った部分は、革の色が少し濃くなります。
トコノールは、革の繊維の奥まで入り込み、毛羽立ちを根本から長期にわたり押さえます。
◯コバをツヤピカに仕上げる
革の裁断面、コバはそのまま使うと次第に毛羽立ってきます。トコノールはこの毛羽立ちをおさえ、美しいツヤを出しながら、コバを保護します。
コバに少量を薄く塗る
トコノールを指に少量取り、コバに薄く塗ります。このとき革の銀面にはみ出したままにしておくと、シミになるおそれがあるので、ティッシュなどですばやく拭き取ります。
肌の敏感な方は、小さく折りたたんだウエスにトコノールを少量つけて塗ってください。
指先が入りにくい入隅部分は、「目打」や「くじり」につけて塗ると効率的です。
コバ磨きは、タンニンなめしの革に特に有効です。
[ワンポイント]一度にたくさんつけようとすると、はみ出しやすくなるほか乾燥も遅くなります。一度に塗るコバは10p〜20p程度がおすすめです。
トコノールが半乾きのときに磨く
トコノールの成分が革に浸透して白い色が薄くなったら、プレススリッカーをあてて擦ります。革の繊維がおさえられて、若干色が濃くなりツヤが出ます。ウエスなどで磨いてもよいでしょう。
トコノールを塗った直後に磨くと、水気が多くコバが縫い目の方に押されて変形しやすくなります。また乾いてから磨くと、トコノールを塗った量の多い所と少ない所で差ができ、ツヤが均一に出ません。
トコノールは、コバを美しく艷やかに仕上げて保護する
塗る前、磨いた後を比較
写真左はトコノールを塗る前、写真右は塗って磨いた後です。トコノールを塗った後は、革の色が少し濃くなりツヤが出ます。
トコノールで磨いたコバは高い耐久性により革を保護しますが、長い間つかううちに再び毛羽立ってしまうこともあります。そんな時は、再度トコノールをつけて磨いてあげましょう。いつでも、お手軽に、ツヤのあるなめらかなコバが復活します。
コバスーパーも一発でキレイな仕上がり
トコノールは水溶性のため、後からどんな仕上剤や顔料もお使いいただけます。たとえば「コバスーパー」や「コーバー」を使うとき、トコノールで磨いて平坦に仕上げてから乗せると、一発でキレイなコバに仕上ります。
写真はコバスーパーのホワイトを使っています。目打やくじりを使い、なるべくはみ出さないように塗ります。
コバを染色してから磨いてもOK!
コバに色を付けたい場合は、染料で色を差して染めてからトコノールで磨きます。
コバからはみ出さないように、面相筆や「らくぬ〜り」などを使うとよいでしょう。
染料が乾いてきたら、トコノールを薄く塗り、プレススリッカーで磨いてツヤを出します。
トコノールは、毛羽立った革に塗って磨くだけでツヤがでる。
トコノールは、非常に伸びがよく、革に塗りやすい粘度に調整されており、だれでも簡単にムラなくお使いいただけます。
塗って、磨くだけでツヤが出る
トコ面の仕上げは、薄く塗って磨くだけ。
フタをあけて、たったこれだけの作業で、だれでも簡単にツヤのあるトコ面が得られます。
トコノールは、衛生的に管理されたクリーンな工場で、厳密なクオリティ・コントロールのもと生産され、未開封で約3年(冷暗所に置く)、開封時で約1年鮮度を保ちます。
トコノールは繊維の奥まで成分が浸透、表面をコーティング

自然素材本来の温かみを保ちながら、毛羽立ちをおさえて革を保護
トコノールはフタをあけて塗って磨くだけで、だれでもムラなくツヤのある面が得られます。トコノールは伸びがよく、革の繊維に浸透しやすい粘度に調整してあり、成分が革の繊維の奥深くに入ります。その上から成分が層をつくり、群を抜くツヤと高い耐久性、そして革本来の温かみを失わず質感を保ちます。上のイラストで例に出したCMC、ふのりは昔から使われてきた仕上剤です。CMCやふのりはトコノールと比較して、繊維の奥まで入りづらく、傷に弱いという弱点があるほか、実際に使うための準備に手間がかかります。では、どのような手間がかかるのでしょうか。この後、その準備を見ていきます。
×CMCはダマになりやすい
CMCは混ざりにくく、すぐに使えるわけではありません。ぬるま湯で溶いてよくかき混ぜ、そのときにできたダマがなくなるまで、ひたすら混ぜ合わせるか、一晩寝かせておく必要があります。
一度混ぜあわせたCMCは保存しにくく、常温で置いておくとすぐに使えなくなってしまいます。
冷蔵庫に保管しても約1週間で使い切る必要があります。
×ふのりは煮出す手間がかかる
ふのりも使いたい時にすぐ使えるわけではありません。
乾燥させた状態から水に入れ、火にかけて煮出す必要があります。火器は火傷のおそれがあるほか、冷ましてから成分だけを濾し取る手間がかかります。
CMCと同様に煮出した抽出液は保存しにくく、冷蔵庫で保管する必要があります。
成分として「糊」に近く、湿気があると緩み、押えた毛羽立ちが戻ってしまいます。しかし「糊」として見た場合の接着力はとても弱いものです。
革に実際に使うと、水分のほうが革に吸われ、糊の成分は入っていきません。つまり、革の繊維を上から押さえるだけで、表面だけを膜で押さえる働きのため、乾燥するとパリっとした薄い膜が張ったような固い質感になり、使ううちにすぐに毛羽立ってしまいます。
CMCもふのりも、使えるようになるまでに手間がかかり、また保存も効きません。その点トコノールは、
フタをあけて塗るだけ。だれでも手軽に使え、ムラなく仕上ります。
◯トコノール開発秘話
トコノールは発売から50年以上経つロングセラー商品です。
革のトコ面・コバ仕上剤として、半世紀以上に渡り日本国内のみならず海外のクラフターからも、圧倒的な支持を集めています。
ここからは、そんなトコノールについて、誕生秘話や改良の歴史、商品の変遷などをご紹介します。
語り=SEIWA技術部長 聞き手=SEIWA企画部 岡田和也
■「トコノール」誕生の由来
だれでも簡単に、ムラなく使えるトコノールは、どのようにして生まれたのでしょうか? まず、トコノールは弊社が革工芸に関する薬品や工具を扱いはじめた、革工芸事業の黎明期に生まれた商品です。その当時、弊社におられた革工芸作家の谷 保仁先生に協力を仰ぎ、使用感を聞きながら開発されました。その経緯について、当時を知るSEIWA技術部長に尋ねました。
『こんにち日本で発展した革工芸の大元はアメリカから始まりました。レザーカービングなどの技術は、アメリカで発祥し高められ、そこから世界的に広まった技術です。革のローケツ染等の染色技法は、後々日本で編み出された技術です。レザーカービングの技術が日本に伝播した頃、そのまま取り入れた技術もあれば、独自に昇華させた技術もありました。弊社は元々工業薬品メーカーであったため、それより以前から薬品や工具を自社生産していました。会社設立当時から研究室を設置し、化学的に解析しながら研究開発を行い、より良い製品作りを行っていたのです。そのため革に関する薬品の研究開発もいち早く取り組み、先駆者としてどこよりも早く商品化できたのです。
薬品の開発にあたっては、お客様の声はもとよりアメリカのタンディ社(当時のフィービー)の製品等を参考にしました。当時の彼らの製品は、靴墨なら色をつけるだけといった具合に、単機能の製品ばかりでした。また、仕上剤としてツヤを出したい時にはつや出し剤が有りましたが、防水性が著しく低く、雨にふられると流れてしまうといった欠点が散見されました。当時の技術社員は、そういった製品を自ら使用し、試験しながら独自の開発を進めたようです。その開発項目のひとつに、トコノールがあったのです。
■トコノールの改良
半世紀前、初期のトコノールは現在のCMCやふのりに近く、つまり「糊」に近いものでした。塗った後に成分が表面をコートしているような「肉厚感」がありませんでした。
もちろん作業中に感じる触感は現在と大きく変わりませんが、乾燥すると水をつけて磨いただけのような「パリっとした感じ」でした。すなわち、薬剤として何も表面に残っていない感じだったのです。薄い糊だけで毛羽立ちを上から押さえているだけのもので、それは効果が損なわれるまで、つまり毛羽立ってしまうまでの期間も短かったのです。
その後、少し時代が下り、1980年代中頃のことです。
当時トコノールの原材料に使用していた薬剤は、輸入品も多く使用していました。ところがこの薬剤の製造元が製造を中止したり、廃止になってしまい、輸入できなくなりました。そこで材料がなければ作れないため、原材料を一新しました。原材料の薬剤は約10種類程度を使っていましたが、その半分程度を新規に国内調達可能なものと入れ替え、同等以上の性能を目指しました。性能向上を目指して試験を繰り返した結果、以前のトコノールから性能を向上させることに成功しました。この時改良したトコノールは、現在皆様にお使いいただいているトコノールの性能および使用感に近いものです。
改良したトコノールは、輸入材料から国産材料に切り替え、以前のトコノールより「肉厚感」を出すことに成功しました。「肉厚感」というのは、言い換えると「質感」ということです。新しいトコノールで磨いた革のほうが、革の質感を残しています。たとえばガラス板などで磨くと、面の毛羽立ちは一様に押さえられますが、革の質感はトコノールのほうが高い。
トコノールは毛羽立ちを押さえながらも、柔軟性に富みます。成分の一部は油の一種を使っているので、糊だけでトコ面の毛羽立ちを抑えるよりも革に馴染み、柔軟性と温かみが出ます。これにより、毛羽立ちを押さえる糊の上に膜ができ、この2層効果で表面を丈夫にし、防汚効果も獲得しました。
■トコノール[無色]が白いのはなぜ?
トコノールは、牛乳などと同じように、水の中に細かい分子として分散している状態です。そうすると光が乱反射するため、我々の目には白く見えます。革に塗った後に水分が抜けていくと、お互いの分子間にある水分が抜けて結合するため、乱反射がおさえられて透明に見えます。
■「トコノール」ネーミングの由来
今から半世紀前、新商品のトコ・コバ仕上剤の名称を考案する際、社内で検討した末に「言葉の語呂と響き」でできたようです。ひとつめは、革のトコ面のall(オール)、つまりトコ面のすべてに使える、革のギン面以外の毛羽立った部分のすべてに使えるという意味です。革の「トコのオール」に使える、そこから転じて「トコノール」というネーミングが生まれました(笑)。
ふたつめは、音の響きです。響きとして子音が「イ」「ウ」「エ」などより、言葉の末尾が「オ」で伸ばしたほうがいいと当時の社員は考えたようです。ナ行で言うと、「ニー」「ヌー」「ネー」より、「ノー」と伸ばしたほうが響きがよい。一方、革のトコ面に塗るため「トコ+ヌール」というネーミングも候補にあったようですが、前述の「オール」と子音の響きから「トコ+ノール」で「トコノール」に決まりました。』
トコノール商品デザインの変遷
写真左側は1970年代中頃〜80年代中頃までのパッケージです。右に行くほど新しく右端が最新です。
【商品のお問合せ先】
SEIWA外商部 Tel. 03-3364-2112
SEIWA WebShop:ケミカル用品 | 床・コバ処理仕上剤
ご注意:
※使用後はフタを確実にしめて、高温にならない場所で保管してください。
※本品に耐水性はありません。水濡れ(雨、水はね)等の対策には、本品の上から耐水性のある仕上剤を塗ってください。