「自分に適した
モノづくりのサイズ」
を探求し、
彫金と革に傾倒した
――分かりました。それでは話題を変えまして、現在いろいろな技術を身に付けた坪谷さんですが、今に至るご経歴についてお教えください。私から見ると、すごく多彩な分野に精通されているように見えます。まずは一番はじめ、自分の手を動かして「モノづくり」をするようになったのはいつ頃ですか?
二十歳の頃、専門学校に通っていた頃です。当時からジュエリーが好きで、大好きなスタイルのショップによく行っていました。当時は眺めているばかりだったのですが、そんな様子を見かねた友人から、そんなに欲しいならつくってしまえばいいということで、具体的な制作の方法を教えてもらいました。それはワックスでジュエリーの原型をつくるという方法でした。
東急ハンズ渋谷店に友人と行き、彫金コーナーで必要なものを教えてもらい、道具を揃えていきました。ワックスというのは樹脂成形用の造形材料で、ロストワックス法という名称の非常にポピュラーな技法です。切削したり溶かして盛り上げたりといった工程で、ジュエリーの原型をワックスの塊からつくり、それを石膏で固めて焼成します。するとワックスでつくった原型が溶けてなくなり、石膏の中に原型の形をした空洞ができます。そこに負圧や遠心力を利用し、溶かした金属、つまりシルバーやプラチナを流し込みます。その後、冷やしてから石膏を壊して原型と置き換わった金属を取り出します。洗浄、研磨を経てジュエリーになります。金属を直接加工する以外にも、こうしたロストワックス法はジュエリー制作の技法として一般的ですね。そういったことができるということを、当時の友人から教えてもらったんです。
ちょうど同じ頃、東急ハンズ渋谷店の彫金コーナーの近くにレザークラフトコーナーもあり、そこでジュエリーと組み合わせて使えるものとしてレザークラフトもはじめました。
専門学校は桑沢デザイン研究所のインテリアデザインコースに在籍していました。モノづくりが好きなのは、祖父の影響だとおもいます。祖父は宮大工でした。私が幼い頃、小学校から帰ってくると仕事場に行き、祖父の仕事をずっと見ていました。祖父は、和菓子の落雁(らくがん)(注1)の型などもつくっていました。落雁は花のモチーフなどが彫ってある雌型です。
小学生の頃は、祖父にあこがれて大工になりたいとおもっていたこともありました。それから後々になって、祖父の影響からか、家具をつくりたいとおもうようになりました。そして家具に加えて、家具を置く空間についても学びたいということで桑沢デザイン研究所に入ったんです。
しかし、実際に家具づくりをしてみると、自分の納得いくようにできなかったことがありました。今にしておもえば、当時の環境や技量・経験だけで判断してしまってよかったのかともおもいますが、家具づくりを通して味わった蹉跌を端緒に「自分が納得できるものをつくれるサイズ」を探求していったんです。「自分に適したモノづくりのサイズ」と言い換えられるかもしれません。
一般的に家具は大きなサイズで、今にしておもえば自分に適したサイズではありませんでした。当時の未熟な力量でそういった判断をするのは、当然まだまだ早かったとはおもいますが、そこで家具から離れてだんだん小さなサイズに向かって行きました。そして自分の興味のある事柄で、モノづくりを繰り返しました。ちょうどその頃、友人を通して出会ったのが前述した彫金とレザークラフトでした。2つの分野でデザイン起こしから仕上がりまで一貫して自分の手でつくれるという手応えを得ました。「自分で納得できるサイズ」だったんです。全ての工程に目が行き届き、手を動かしてつくれて、かつ納得いく仕上がりが得られたこの2つの分野を主軸に、現在まで制作を続けています。その間20年、東急ハンズ渋谷店には、ずっと通い続けていますね。特にレザークラフトコーナーは品揃えが豊富なので、ほとんどの道具をそこでそろえました。
――1993〜4年頃の話になりますね。
じつはそれよりもっと前、高校を卒業してから最初は自動車メーカーに入社したんです。2年間在籍し、そこではクルマのメンテナンスに加え、板金や塗装もある程度できるようになりました。私はバイクに乗ることが趣味ですが、その頃の経験を活かして今でもカンタンなガソリンタンクの塗装なら自家製で作業します。そうして手に職的な感じで業務を身につけていったのですが、本当は先に述べたような専門学校で学びたいとおもっていました。だから専門学校に入るための資金を貯めるために2年間働き、その後美大受験向け予備校に1年通いました。
デッサンなどを学びながら受験準備を進め、その後晴れて桑沢デザイン研究所に入りました。ほかの人に比べたら、3年くらいまわり道というか、違う道を通ってきたといえるかもしれませんね。
桑沢デザイン研究所では、前述したように、主に空間と家具をデザインすることを学びました。そこでは、自分の手でデザインしたものを自分でつくることもあったのですが、多くは職人さんにデザインの立体化を依頼します。そこで立体化されたものを見ると、デザイン時のイメージと違うことがありました。デザイン上のイメージと立体とのギャップを埋める作業をするのが、すごく大変でした。職人さんと話すこともよくありましたが、平面上のデザインと立体上のそれはまったく別物でした。
当時の経験は今の彫金におけるお客さんとのやりとりに生きています。お客さんがデザインとして頭におもい描いているイメージと、立体になったときのイメージのギャップをなるべく埋めるために、ラフモデルをもとに立体化したイメージを共有していくようにしています。完成物をいきなりお渡しすることはいたしません。こういったことはデザインから全て手がけることができる私の強みのひとつかなとおもっています。
お客さんに「イメージと違う」という感覚がなるべくなくなるように、たとえば結婚指輪をプラチナでつくるなら、制作途中にシルバーでラフモデルをつくり、お見せしています。その時点でイメージと違う所があれば反映します。石も実物と同じように見えるものをジルコニアで用意しています。もちろん革の方も、フルオーダーでつくる時は同様にイメージに近づけるようにしています。せっかくオーダーした中で、双方納得いくようにしたいじゃないですか。価格的に考えるとサービスに近いような感じになってしまうのですが。
――それは素晴らしいですね。せっかくオーダーしたのにイメージと違うモノでは、長く愛用するのは難しいとおもいます。その点、坪谷さんは長くつかってもらえるようにとお客さんの満足感の向上をとても大事になさっているのですね。彫金・レザークラフトをはじめられてから現在まで20年ほどが経過しましたが、この2つの分野で身を立てることを実感されたのはいつ頃ですか?
いつ頃と問われると明確にはお答えできません。また、この分野でやっていけているかと言われれば、今でも胸を張って言えるほどではありません。自分のつくったものがお客さんにすごく喜んでもらえる時が、つくり手として「やってよかったな」とおもえる瞬間です。その繰り返しです。
オーダーメイドから離れ、製品をリリースするだけになると、オーダーメイドで味わえる瞬間やお客さんとのやりとりがなくなってしまうので、今後もオーダーは受けていきたいです。そこでのやりとりや出来上がったものを喜んでもらえることが、継続の原動力です。
――その20年の間に今だから話せる失敗談などはありますか?
失敗と成功は常に表裏一体で、近くに存在しています。挫折を繰り返しながら成長してきたようなものです。ブランドを立ち上げ、商品を展開しようとしても、なかなか置いてくれるところが見つからなかったり、伝えたいことが伝わらなかったりすることがあります。革のセレクトが悪いのかと自信をなくすこともあります。どうすれば受け入れてもらえるのか、試行錯誤を繰り返しながら新しい商品をつくっています。
自分のよいとおもうものはもちろんありますが、相手のショップさんなりバイヤーさんが望むモノに近づかせて行きたいなとはおもっています。
――分かりました。では坪谷さんご自身の技術向上のために、日々心がけていることはありますか?
私はモチーフとして、自然にある曲線にすごく注目しています。植物の葉など、すごく美しいとおもいます。植物は長年かけてつくられてきた自然の美です。人間が創りだした曲線ではありません。
花びらにしても、人が絵に描いた葉や花びらももちろん美しいのですが、それはその人の目を通して描かれたものです。多少その人の価値観にあわせ、美しく見えるように描かれるなど、その人の意思がそこに込められ、結果としてあるがままのカタチから離れてしまっているものもあります。
そうではなく、自然にある植物そのものをよく観察することで、自然な曲線とはどういうものかを感じて作品に取り入れています。不自然ではないカタチというか、そのほうが自然な雰囲気ができると考えています。景色を見ることも好きです。ボーっと景色を眺めている時に、ぱっとデザインがおもい浮かんだりすることもあります。
――JET-RIDEとしての将来の展望は?
今のところ国内のショップさんだけですが、いずれは海外にも展開していきたいですね。私のデザインしたものが、どのくらい受け入れられるのかまったく未知数なので、今すぐというわけには行きませんが。まずは国内での広がりを模索している途上です。
技術的には彫金で、鍛金の分野をもう少し深めていきたいです。叩いてカタチをつくるというものですね。レザーの方はカービングを取り入れてみようかと考えています。カービングの道具も自分でつくれたら面白いなとおもっています。モチーフは植物の文様をパターン化したり、幾何学模様を繰り返したりするようなものになるとおもいます。もっと広くいろいろな方につかっていただけるように、これからも精進していきたいですね。
また商品のラインアップとしては、トートみたいに大きいバッグをメインにつくっていきたいと考えています。加えてビジネスバッグです。単純にビジネスバッグというと、老舗メーカーさんがすでにたくさんつくっていますが、もう少しオシャレの入る余地を多くとったデザインのバッグをつくってみたいですね。
――ありがとうございました。
注1:米などを主原料とした澱粉質の粉に水飴や砂糖を混ぜて着色し、型に入れて乾燥させて固めた和菓子。
【Shop Information】
edge(エッジ)
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前6-16-5 HOLON-3(B1/1F)
Tel 03-6418-5803
OPEN 12:00〜20:00(平日)/11:00〜20:00(土日祝)・無休
edge HOMEPAGE
インタビュー=SEIWA 岡田和也
ワックスで原型をつくり、コンチョと組み合わせたオリジナルアイテム。
「約20年間、東急ハンズ渋谷店に通い続けている。特にレザークラフトコーナーは品揃えが豊富なので、ほとんどの道具をそこでそろえた。」
お客様に満足してもらい、自身も満足いく仕上がりとなったフルオーダーのトートバッグ。白革をつかったこだわりの逸品。
「私がよいと思うものとショップさんが望むものを近づけたい。」
東京・原宿のセレクトショップ「edge(エッジ)」。
JET-RIDEのアイテムは同店B1Fフロアにある。
- 1坪谷貴起|Takaki Tsuboya
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